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zoom RSS 円城塔「これはペンです」 文字通り

<<   作成日時 : 2012/09/26 00:17   >>

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円城塔「これはペンです」の単行本には、
「これはペンです」と「良い夜を持っている」の2作品がはいっている。
「これはペンです」は書くこと。
「良い夜を持っている」は読むこと。
この2作品は「読書」という根源的な問題に対して「対」な関係をなしているように思う。

「これはペンです」は文字通り文字、文字通り書くことについての思考実験。

だから文章の内容より文字そのもの、それを書く手段そのものに焦点がいく。
その着想がアラン・ソーカルからDNA、そして楽譜や料理のレシピにまで及ぶとき、
今までの世界がひっくり返されたみたいで、地面がなくなってしまったみたいで、かなり衝撃をうけた。
何度も書かれ直す小説とは?
楽譜やレシピは同じ音楽や料理を何度も何度も再現し続ける。
あらゆる芸術の中で最高のものは「料理」だときいたことがある。
五感全てを総動員する芸術。何度も再現されて、その刹那にしか存在しなくて、そして2度と同じものはこの世に出現しない。

作者の意図とは思いっきり間違ったベクトルに感想を持ってしまったけれど、
それが読書体験というものだと開き直って、
私が特に好きだったのはアイソレーション・タンクのくだり。
人は感覚を遮断されると激しい幻覚を引き起こしたりする、
体が入力に飢え自ら入力を偽造し始めるというところ。
そういえばこんな記事があった。

無音の中に放り込まれると、人は45分以内に発狂する
http://news.ameba.jp/20120409-409/

人間は視覚情報は遮断できるけれど聴覚は遮断できない。
進化の過程で聴覚は外敵を察知するのにそれだけ重要だったのだろう。
だから常に情報を求める。
そして情報がないと自ら作ってでも情報を求める。
まるで体の免疫が、攻撃する対象がないと自らの体を攻撃するように。
人間の集団が、外敵がないと人間同士で戦争するように。
ちょっと詭弁。
でも私自身、全く視覚情報がないという体験をしてその時の風景の記憶があるという、
つまり脳が勝手に組み立てているのよね、というのを経験しているから、
どこまでが現実でどこまでが幻覚かは、
自分の脳に閉じ込められていて外に出られないのだから分からない。

必ず二度見てしまう南アのトリックCM
http://videotopics.yahoo.co.jp/videolist/official/others/p0f01a025792495c9a2755d357b5cccec

驚きの「変化盲」
http://fl-musica.tea-nifty.com/naochi878/2010/09/post-0134.html

「こだわり」は実は曖昧:知覚と「選択盲」の実験
http://wired.jp/wv/2010/10/07/%E3%80%8C%E3%81%93%E3%81%A0%E3%82%8F%E3%82%8A%E3%80%8D%E3%81%AF%E5%AE%9F%E3%81%AF%E6%9B%96%E6%98%A7%EF%BC%9A%E7%9F%A5%E8%A6%9A%E3%81%A8%E3%80%8C%E9%81%B8%E6%8A%9E%E7%9B%B2%E3%80%8D%E3%81%AE%E5%AE%9F/

どんどん脱線してしまった。
このように脳なんて適当なのだから、
この読書感想も適当だ。

私はこの話を読みながら、ラストのオチをいろいろ考えていた。
で、7〜8割くらい読み進めたあたりで私の考えていたオチが全部どれも違うと書かれていて、
予想していた犯人がみごと違っていてヤラレタ!と思うまるでミステリを読んでいるような。
私に犯人を当てられる円城塔では勿論ないけれど。
ラストはなんだか優しかった。まるで小説のような着地。もっと煙に巻くのかと思っていた。

「良い夜を持っている」は文字を読むとは、文章を読むとは、小説を読むとはどういうことかの思考実験。

文字の組み合わせと連なりからなる文章や小説、
DNAをもとに設計された脳、
楽譜から奏でられた音楽、
レシピから作られた料理、
「良い夜を持っている」は「これはペンです」の補完であり対極だ。

「これはペンです」の中でも時間の変動がおこるけれど、
この話の中でも時間は未来と過去がごちゃまぜになって、
しかもそれが記憶や夢の混濁とごっちゃになって襲ってくる。
シャーロック・ホームズの推理が遡行推理(レトロダクション)、
現在から過去を作り出す、つまり時間の流れが逆な推理なのだとしたら、
未来が先に現われ過去が次々に生成していくのなら、
「良い夜を持っている」の中に出てくるワトソンは、
この約1年後に出版される「屍者の帝国」のワトソンがアフガニスタンから帰ってきてのちの人物となり、
円城塔の出版作品のうえでも時間の流れが未来から過去へ流れている。
ちょっと大げさ。
「屍者の帝国」は3年4ヶ月かかっているので、その間に「良い夜を持っている」は書かれているはずなのだから。
それでも、「屍者の帝国」のワトソンが小説内に出てきたときには驚きと嬉しさで
読者として記憶が混濁してしまう。

「良い夜を持っている」を読んでいると
文章のゲシュタルト崩壊、感覚のゲシュタルト崩壊、そして記憶のゲシュタルト崩壊までやすやすと起こる。
ある朝、グレゴール・ザムザのように不安な夢から目覚めると、今日もわたしだ。
どうしてそれが確かだといえるのか。夢で記憶が途切れるのに。
そんな、ここまでやるかというくらい世界を、宇宙を崩壊させておきながら、
ラストはやはり優しい、ほのぼのとした小説のような着地。

ふと、「これはペンです」の書き手の『わたし』と「良い夜を持っている」の姪、
「良い夜を持っている」の語り手の『わたし』と「これはペンです」の叔父が、
同じ人物に思えたりする。

「これはペンです」では閉じ込め症候群を、
「良い夜を持っている」では超記憶症候群(サヴァン症候群もちょっと混じってる)をもってきて、
思考実験を深めていく。
この点でSFといえるだろうし、テーマが「読み書き」ならばまさに純文学。

「これはペンです」
SFマガジン編集部編「SFが読みたい! 2012年版」ベストSF2011国内篇第1位。
第145回芥川賞候補。これが2度目の候補。

賛否両論の芥川賞落選作、円城塔「これはペンです」単行本化
http://www.webdoku.jp/newshz/ohmori/2011/09/29/143519.html

こんなに面白いのになんで受賞しない?
池澤夏樹や島田雅彦が賞賛というところはファンとしてとても嬉しい。
石原慎太郎や宮本輝が否定するのは、まあするだろう
(そういえば宮本輝は、舞城王太郎「阿修羅ガール」三島由紀夫賞受賞の時もめちゃくちゃ否定してたなあ)。
問題は村上龍。村上龍の否定の理由がいまいち納得できない。
村上龍は大好きなので、ちょっとびっくりしてしまった。
やはりエログロでなければいけなかったのだろうか(そんなわけない)。

「道化師の蝶」で第146回芥川賞受賞。3度目の正直。
石原慎太郎が否定するのは当たり前として、
肝心の村上龍は、欠席。欠席かあ。
出席していたら、賛成派だったのだろうか、それとも前回同様だったのだろうか。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。
株式の取引
URL
2012/12/07 16:27
コメントありがとうございます。
思考実験小説って格別に面白いですよね。
白亜ジュラ
2012/12/17 00:29

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