円城塔「道化師の蝶」 猫の下で読むに限る

円城塔「道化師の蝶」は猫小説である。
この小説の I は、希代の多言語作家 友幸友幸 が無活用ラテン語で書いた小説「猫の下で読むに限る」(のほぼ全訳)だからだ。
そして眠れぬ夜の羊の代わりにもなる。
芥川賞選考委員が「2回読んだが2回とも途中で寝た」とまでおっしゃるくらい睡眠効果抜群だからだ。

私は読書中眠くはならなかったけれど理解もできなかった。
やはり猫の下で読まなかったのがいけなかったらしい。
なのであらすじを。

円城塔『道化師の蝶』攻略ガイド
http://www.webdoku.jp/newshz/ohmori/2012/01/27/200054.html

「これはペンです」では文章を紡ぐことをDNAや楽譜やレシピで例えた。
「道化師の蝶」ではダイレクトに編み物で文章を紡ぐ。
できた編み物の網で文章の着想を捕える。
こうなると文章を紡ぐのが先か着想を得るのが先かという問題になってくる。
ぐるぐる永久ループに陥る。
まさに「道化師の蝶」は永久ループで円環構造。過去と未来がぐるぐる回る。

「これはペンです」や「良い夜を持っている」と同様、
「道化師の蝶」も多言語能力(おそらくサヴァン症候群)をもってきて思考実験を掘り下げていく。

ノーム・チョムスキーの生成文法とか形式文法とか句構造文法の階層とか
内容は忘れたけれどうっすら思い浮かべたり。
猫つながりでシュレディンガーの猫から
量子論的文学なのではないかと勝手に思ったり。
つまり観測する側によって内容が変わる小説。
時と場所が変われば内容が変わる小説。

道化師を アルルカン と発音すると、なんてきれいなんだろう。
どうけし という音とはずいぶん響きが違う。

多言語習得者ダニエル・タメットは母音が豊富なエストニア語が好きらしい。
発音の美しさで文章や内容はきっと変わってくるに違いない。
「道化師の蝶」の中の文章が『さてこそ』という言い回しに振り回されるように。

単行本にはもうひとつ「松ノ枝の記」も収録されている。
「松ノ枝の記」では道化師を トリックスター
これも響きが全然違う。

「松ノ枝の記」は原本と翻訳が、これまたどちらが先かの物語である。

ここでは太古の石斧を作ることで文章を書く。
読む能力と書く能力の機能が分裂した人間。
一見、二重人格にみえるけれどそうではなくて二重機能の人間。
ザゼツキー症例。
ここでこの症例をググると、、、見つからない!
「これはペンです」「良い夜を持っている」「道化師の蝶」では実在の症候群が扱われていたのに、
ここにきて空想の症例。(追記参照)
気持ちよくやられてしまった。

(追記9/28:

ザゼツキー症例、実在する。

旧ソビエト連邦の心理学者ルリヤ
記憶喪失者の個人史を扱った「失われた世界」
この登場人物がちょうど該当する。
ルリヤの
共感覚によって特異な記憶力を持つこととなった男性「偉大な記憶力の物語」
これはまさに「良い夜を持っている」
う~ん。
見つけそこなうなんて、
円城塔ファンとしてまだまだ未熟。 

追記ここまで)

ヒト属の最初の言葉は歌。

文字や文章が
音符や楽譜になる。
歌う。
反響する声を聴く。

そして音楽の最も原始的な形態は即興演奏
会話が即興演奏ならば、まさしくコードに基づいたジャズのアドリブの方法そのものだ。

この物語の最終で音楽にたどり着くなんて、感慨深い。

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    Excerpt: 小説「道化師の蝶」を読みました。 著者は 円城 塔 奇妙な不思議な話でしたね ファンタジー的ということではなく、文学的な・・・ 「道化師の蝶」と「松ノ枝の記」の2つの短編 どちらも 言葉、書く.. Weblog: 笑う社会人の生活 racked: 2012-10-06 18:16
  • 「道化師の蝶」円城塔

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